ウィズネイルと僕

 

 

  • 『ウィズネイルと僕』(Withnail  and I )  1984 / イギリス / 108分

   監督*ブルース・ロビンソン

   脚本*ブルース・ロビンソン

   ウィズネイル *リチャード・E・グラント

   僕      *ポール・マッギャン

   モンティ   *リチャード・グリフィス

   ダニー    *ラルフ・ブラウン

   ジェイク   *マイケル・エルフィック

 

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あらすじ * 1969年。ロンドンはカムデン・タウンに住む二人の売れない役者、ウィズネイルと僕。酒とドラッグに溺れる貧乏な毎日に嫌気がさした僕は、ウィズネイルの叔父(モンティ)が持っている田舎のコテージで素敵な休日を送ろうと目論むのだが…。 *1

 

まず、驚いたことは、ウィズネイル役のリチャード・E・グラント、トレヴァー・ナンの『十二夜』でのサー・エイギュチークだったなんて・・・!あの変な黄色い長靴下とアホな性格、茶番のようなシザーリオとの決闘、思い出せば愛しい存在でした。

モンティは、誰もが知るバーノン・ダーズリーですし、イギリス映画って(他の国もだけど)、あぁこの人あの映画のあれか!という発見が面白いです。

ちなみに、私が一番驚いたのは、『太陽と月に背いて』のデヴィッド・シューリス!最近では『レジェンド 狂気の美学』、良かったです。しかし、当時私は高校生。なぜか図書館で、ディカプリオーーーー!ルーーーーピン先生!!!!!となったもんです。(なんせポッタリアンでしたので)

 

話がずれてしまいました。

 

話としては、売れない俳優が、それでも虚栄心を抱き続け、酒を求め続け(お金がないあまりライターオイルを飲むのには引きました)、ドラッグの売人も家に招き続け、「あぁ、やってらんないわ」となります。当然です。そして、ウィズネイルの叔父のモンティに別荘を借り、二人で田舎を訪れます。

しかし、別荘までの道中で大雨に遭い、全然明るい未来が見えないんですね。食べるものも、寒さをしのぐものもない(椅子を叩き壊して薪にするのは斬新でした。今度やってみたいです。なんちゃって。)隣人に丸ごとの鳥をもらったり、密猟者を見かけものをねだったり、そんなうちに叔父のモンティがやってきます。

このモンティはゲイで、それも筋金入りです。僕に迫るわけですが、その顔がもう、とても高揚していて欲望に取りつかれた、若い子を狙うオジサンでして、全然バーノン・ダーズリーじゃなかった・・・。(知ってる役を引きずる私の悪い癖)

結局、私は危機を逃れ、モンティは気まずさから別荘を後にします。しかし、ウィズネイルと僕の仲は、微妙になる。私は、ウィズネイルのどっちつかず、何事も中途半端、よく嘘をつく、酒浸り、ドラック漬けの性格と生活態度への鬱憤がたまっていたのです。そのままロンドンに帰りますが、気まずさはなくならず、ちょうど家も立ち退き命令が出るし、ちょうどオーディションで大役を得ることになるしで、僕は二人で住んでいた家を去ることとします。

そして僕を見送り、別れたあとに雨の中の公園で、ウィズネイルが絶叫するようにハムレットを演じる、これは名場面。

 

大好きなのでハムレットの台詞を引用します。

 

I have of late—but wherefore I know not—lost all my mirth, forgone all custom of exercises, and indeed it goes so heavily with my disposition that this goodly frame, the earth, seems to me a sterile promontory; this most excellent canopy, the air—look you, this brave o'erhanging firmament, this majestical roof fretted with golden fire—why, it appears no other thing to me than a foul and pestilent congregation of vapors. What a piece of work is a man! How noble in reason, how infinite in faculty! In form and moving how express and admirable! In action how like an angel, in apprehension how like a god! The beauty of the world. The paragon of animals. And yet, to me, what is this quintessence of dust? Man delights not me. No, nor woman neither,nor women neither.

 

理由はどこにあるのか、自分にもわからぬ。ただ最近の自分は、怏々として楽しまず、日々の諸芸も怠りがち、それがますます嵩じて、いまでは、この頼もしい大地も、たえず波頭に弄ばれる荒れ果てた岬の岩肌同然。あの大空、世にも美しい天蓋も、それ、その頭上のすばらしい蒼穹、火と燃ゆる黄金の星をはめこんだ壮大無辺の天井、それが毒気のこもる濁った密室としか思われぬのだ―そして、この人間、まさに自然の傑作、智にはすぐれ、五体、五感の働きは精妙をきわめ、つりあいの美しさ、動きの敏活、天使のごとき直観、あっぱれ神さながら、天地をひきしめる美の中心、ありとあらゆる生物の師表、人間。それがいったいなんだというのだ。この身にはただの塵芥にすぎぬ。人間を見ても楽しくはああ女性だって。女性でさえも。

(訳は新潮の福田恆存訳「ハムレット」から引用。nor women neither が繰り返して言われているのはどうしてだろう。そこの意味もうまく通りづらい。)

 

ハムレットは大学の英文学の授業でかじっただけですが、こんなに胸にすとんと来る台詞はないと思います。友人とのダメダメな生活に終止符が打たれて、「日常」が崩れ去る。そこでひとりになったとき、彼に残るのは本物の虚無感。今までのぐだぐだした虚無感ではなくて、それこそ雨の中動物にむかって叫んで、「人間なんてなーーーー!」と言いたくなる程の虚無感なんです。

 

本国でカルト的人気を誇っている本作ですが、トレインスポッティングしかり、パイレーツロックしかり、女だ酒だ音楽だ芸術だなんだお前らぐだぐだだなと感じるけど、そばには仲間や友人がいるんですね(なんかクサいこと言い出しそう)

観る前までは、80年代イギリスで若者に人気だなんて退廃的雰囲気わんさかなんだろうよと鼻をほじくっていましたが、たしかに思ってたより退廃的ですが、でも旅立った僕にしても、虚無感に包まれたウィズネイルにしてもあの退廃的な日常が彼らの人生で大きな意味を持ったと思います。(いわゆる友人とすごした青春とさわやかに解釈してよいものなのか)

 

ジョニー・デップが、死ぬ前に観たい作品と言っていたそうですが、まあ私が死ぬ前に観たいのは『ハリーポッターと賢者の石』としておきますが(LORと迷うかもしれない)、

死ぬ生きる関係なく、とても良い作品でした。85点あげたい。

 

最後に、『十二夜』を。

そういえば、先日『しあわせへのまわり道』という映画にベン・キングスレーが主演されていて、素敵でした。でもはじめ、インドの俳優の方だと思っていて(自身はハーフですよね)、これはベベベベベベンキングスレーではないか!!!!!!!と前のめりになりました。俳優さんって素晴らしい。

 

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f:id:reeeixo:20160913221045j:plain ウィズネイル役のリチャード・E・グラント。楽しそう。

www.amazon.co.jp

 

 

 

 

*1:wikipediaより引用